プロジェクトストーリー

都心の一等地でもまれ、育つ
クラスト次代のエキスパート。

狭小地における、賃貸マンション建設の現場監督

本社事業部 建設課

高橋 起基

2016年入社
入社3年目(当時)
人は挑戦を繰り返して成長していく。それを地で行くのがクラストの施工管理職、つまり現場監督だ。
当時入社3年目、施工経験はわずか2棟という若手の高橋が挑戦したのは、近年都市部を中心に需要が高まっている「狭小地対応型賃貸マンション」。初めての高層建築、初めてのラーメン構造、そして特殊な立地という数々の壁を、彼はどう乗り越えたのか。
日本で一番賑やかなエリアで奮闘した、若手社員のプロジェクトストーリー。

「狭小地対応型賃貸マンション」。その名の通り、従来はマンション用地としては考えられなかったような小面積の土地に対応し、利益が出せるように設計された賃貸マンションだ。多くは5階建を超える高層建築となっており、標準的な戸建て住宅2軒分くらいの敷地があればマンション経営が可能なので、首都圏の駅近といった好立地を中心にクラストマンションの主力となっている。
入社3年目だった高橋。ギンザハウスでは所長の勝亦の右腕として、書類や図面の作成から現場の安全管理まで幅広い業務をこなした。

都心の一等地に
賃貸マンションを建てる

2018年暮れ、そんな「狭小地対応型賃貸マンション」として新たに建設される「ギンザハウス」の予定地で、現場監督として着任した高橋は期待と不安が入り交じった高揚感に包まれていた。

「ギンザハウス」は狭小地対応型賃貸マンションの中では比較的大型で、1・2階が店舗、3階以上が居住区となる10階建の建物だ。2本の支柱から天秤のように梁を伸ばした「ラーメン構造」である点も特徴で、どちらも高橋には初めての経験だった。新たな知識と経験が得られる一方で、その名の通り現場が銀座とあって、難しい工事になることが予想されていた。それが期待と不安の理由だった。
任命された現場監督は2人。所長にベテランの勝亦、そしてサブが高橋だ。高橋の役割は勝亦のサポートではあるが、施工現場ではいちいち先輩にお伺いを立てていたのでは仕事にならない。自分なりの仕事のやり方をあらかじめ組み立て、助けが必要になったら勝亦に頼る。二人三脚のマンション建設が始まった。

全てに余裕のない現場で
効率を追求していく

現場監督の最初の仕事は、工事の準備として行政などに提出する書類や、基礎工事に使う図面などの作成だ。その過程で、高橋たちは早速この現場の洗礼を受けた。事前に提出しなければならない書類の中には重機の使用届けも含まれているのだが、大通りから一本入るとはいえ、建物が密集する銀座の真ん中では、重機の配置ひとつままならない。さらにこの建物は高さが31mを超えるため、通常なら工事が始まってから提出する施工図や足場の設置届けも事前に提出しなければならなかった。
「クラストの全支店を見渡しても、31mを超える建物はなかなかありません」。高橋にとってはもちろん、上司の勝亦にとっても初めての経験。1カ月強をほとんど書類づくりに費やすことになったが、大きな収穫もあった。通常の現場に比べて、より詳細に工事の全体像を熟考することができたのだ。

高橋は、この現場で最も重要なポイントは「流れ」にあると考えた。
「ただの狭小地というだけでなく、周辺にもほとんど余裕がない現場。トラックから荷降ろしするだけでも不自由です。ヒトやモノをどれだけ効率的に動かせるか、仕事の流れを完璧に把握して段取りすることが、このプロジェクトを無事に終えるカギだと思ったんです」。

建設工事には、多くの資材と機材が必要だ。クラストが得意とするRC造は、鉄骨のような大きな部材こそ不要だが、コンクリートを流すためには大量の型枠を使うし、高層建築ならそれらを上層まで持ち上げる大型クレーンも必要となる。また、この建物では諸般の事情から工期の短縮も求められていた。
建物の品質と作業員の安全を守ることは、プロジェクトの最低要件。その上で最も効率のいい施工計画を実現するため、高橋は一つ一つの作業の職人たちの動線から資材の置き場まで緻密に計画していった。

「小さなイレギュラー」くらいは
ここでは日常茶飯事だった

そんな高橋の仕事ぶりを、上司の勝亦はこう振り返る。
「高橋は、入社してすぐに東京本社に配属されたので、これまでの現場は基本的に狭小地。私の個人的な感覚では、余裕のある土地に建物を建てる場合に比べて狭小地の現場は、1.5倍は難易度が高い。つまり、狭小地を1棟建てた経験は、通常の現場の1.5棟分の重みがあると思うんです。だから部下というよりは仲間として頼もしい存在でした」。

しかし、それだけ入念に準備を進めても、予定外のことが起きるのが現場というものだ。最初のジャブは、第一歩ともいえる基礎工事だった。
たとえば5階建くらいの建物であれば、基礎は2m程度の掘削で済む。しかしこの建物は10階建てなので、2倍の4mを掘削しなければならない。狭すぎて作業構台が使えない中、掘削機械の能力の選定、残土の搬入出、緻密な土留め計画が必要だった。さらに、その前には場所打ちコンクリート杭を打ち込まなければならないが、場所打ちコンクリート杭の中でも特殊な工法に限定されたため、予想外に手間取ってしまったという。ただでさえ短い工期の中で、これは大きな痛手だった。

さらに、「小さなイレギュラーは、毎日のようにありましたよ」と高橋。
建物がだんだん形になってくると、さまざまな職種の職人が狭い空間に入り交じる。理想的な現場は、3階で型枠作業をしていたら、2階は型枠外し、1階は配線・配管といった具合に、流れるように作業プロセスが進んでいくことだ。しかし綿密に計画を立てていても、どうしてもわずかなズレは起こる。ひとつの工程だけ早く進めても玉突きになって手が遊んでしまうし、遅れれば当然次工程が作業に入れない。計画を外れることは、どう転んでも非効率なのだ。「狭い」、「やりにくい」といった小さな不満の声は、すれ違うたびに交わされるあいさつのようなものだった。

作業員たちと一緒に考え、
手と頭を動かすことが大切

それでも予定通りの工期を達成するためには、さらに効率を上げて遅れを取り戻さなければならない。そこで高橋が重視したのはコミュニケーションだった。
「今日はどこまで何を進め、明日は何を予定しているか。職人さんたちが混乱しないよう、手を止めてしまうことのないように、情報共有には力を入れました」。職人たちの小さな不満も見逃さなかった。「彼らが不満を持っているということは、何かしら現場に原因があるんです。それを一緒に体験して改善点を見つけられるよう、なるべく現場に入るようにしていましたね」。それでもどうにもならない、手間と時間で解決するとかないことも少なくなかったが、やれることは全部やった、そういう気持ちを共有することで不満の声はだんだん少なくなっていったという。

都内の超一等地とあって、外装や内装の仕上げ、キッチンなどの設備もハイクラスなものが使われ「初めてのことばかりで大きな経験になった」ギンザハウス。一部オーナーのこだわりに応えるためにやり残した作業はあったものの、予定通りの工期で引き渡すことができた。
「できたという喜びよりも、間に合って良かったという気持ち」だったという高橋だが、「これから先も現場監督としてやっていける」という自信を与えてくれた記念碑的な建物になった。

1棟完成させるごとに
違った成長を実感できる

今、高橋は再び勝亦の右腕として神田にオフィスビルを建設している。その現場は銀座よりもさらに過密な神田のオフィス街に立地し、さらに高橋にとって初体験の地下構造を持つ建物となる予定だ。勝亦は「ギンザハウスの働きぶりを見て、次は所長として現場のトップに立つ姿を想像していた」ようだが、神田の現場が輪をかけて難しいため、都心狭小地の実績のある勝亦と高橋のコンビが、もう1回タッグを組むことが決まったという。

「僕自身はまだまだだと思っていますが、所長になる日はいつか必ず来ます。勝亦さんをはじめ先輩が近くで手を貸してもくれる今のうちになるべく難しい現場を経験して、自分の『引き出し』を増やしたいですね」。どんな現場にも新しく学ぶことがあって、1棟完成させるごとに違った成長を実感できると語る高橋。困難をいとわない挑戦心をエネルギーにして、明日のクラストを支えるエキスパートが育っていく。

(本記事の内容は、取材当時のものです)